宮崎家庭裁判所都城支部 昭和49年(少)1271号 決定 1974年8月23日
少年 N・O(昭二九・一二・一四生)
主文
この事件について審判を開始しない。
理由
本件送致された非行事実は「少年は昭和四九年五月一八日午前零時三〇分ころ、宮崎県小林市○町サロン「○○」裏駐車場付近道路において、呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上の酒気を帯びて普通乗用自動車(宮崎××な××-××号)を運転したものである」というものである。
送致記録によれば、少年を検挙した警察官は、少年が上記駐車場内において、駐車中の上記自動車をいわゆる切り返しのため一車身程後退させたところを現認し、酒気帯び運転の嫌疑で検挙したものであることが明白である。
しかしながら道路交通法において「運転」とは道路において車両等をその本来の用法に従つて用いることをいう(同法二条一項一七号)のであるところ、少年の本件自動車後退の所為は駐車場内においてなされているのであるから、上記駐車場が道路と認められないかぎり、少年がたとえ所定の酒気を帯びていたとしても同法一一九条一項七号の二(酒気帯び運転)の罪を構成しないものといわなければならない。
そこで上記駐車場の道路性について検討することとする。
当裁判所の検証調書によれば、上記駐車場は道路に接して設置された私設の管理人の常駐しない駐車場であり、出入口は自動車一台が通れる程の幅で道路に接して一個所だけで、その周囲は金網の棚等で囲繞されているため人車のいわゆる通り抜けは不可能な構造になつており、場内は非舗装で駐車区画線の標示はないが、出入口のある以外の三辺には特定の利用者名を表示した標札が立てられ駐車はその標札に従つてその前に駐車するよう指示されており、駐出車する自動車とその乗員の移動は別段区画線により車路として区画されているわけではないが場内中央部分を利用してなされており、その両側に一〇ないし一二台の駐車が可能となつているものであることが認められる。
しかして道交法において道路とは道路法第二条第一項に規定する道路、道路運送法第二条第八項に規定する自動車道および一般交通の用に供するその他の場所をいう(同法二条一項一号)ところ、上記駐車場が前二者の道路に該当しないことは明白である。残る一般交通の用に供するその他の場所とは現に不特定多数の人又は車両等の交通(移動又は移転)の用に供されている場所を指称するものと解されるところ、まず上記駐車場は一般に標札により指定された特定の利用者自身もしくはその顧客(当該指定された者の多くは飲食店等の接客業者とみなされる)以外は利用することができないことになつているものとみなされるのであるから、たとえたまたま無断で駐車に利用する者があつたとしても、その利用者は不特定多数とは言い難く、この点において既に上記駐車場は一般交通の用に供する場所には該当しないということができる。次に上記駐車場の出入口から奥に向う中央部分は現に自動車とその乗員の移動の用に供されており従つて人車の移動の用に供されている場所と一応いうことはできるが、そもそも道交法は道路における危険の防止その他交通の安全と円滑を図ることを目的としており、かかる同法の趣旨に照せば、構造上人車のいわゆる通り抜けの不可能な駐車場内の部分であり、人車の移動といつてももつぱら駐出車のための自動車とその乗員の移動の用に供されておりその距離と幅もわずかなものといえる上記駐車場の中央部分の如きはいまだもつて同法が一般交通の用に供する場所として予定する場所には包含されていないものと解するのが相当である。
そうすると上記駐車場(又はその中央部分)は道交法にいわゆる道路には該当しないものということができるから少年の前示所為は同法一一九条一項七号の二の罪を構成しないものというべきである。
よつて少年に本件送致にかかる非行はなく、少年を審判に付し得ないから少年法一九条一項前段により主文のとおり決定する。
(裁判官 矢崎正彦)